従来は不妊治療や、がん治療などで卵子ができなくなってしまう場合に利用されてきた『卵子凍結』という方法。最近、健康な女性たちのあいだで「若いうちに前もって卵子を採取して凍結保存しておきたい」という声が高まり、不妊治療を行なうクリニックなどにも、卵子凍結について相談に訪れる人が増えているそうです。

世間ではこうした行為を“卵活”と呼び、“婚活”や“妊活”と並んで、20代〜30代女性たちの間でいま話題になっています。

さまざまな意見もある卵子凍結と、それを望む女性たち。
不妊治療の第一人者で、自身も43歳での高齢出産を経験した船曳(ふなびき)美也子医師に、“卵活”について話を聞きました。

 

“卵活”は恋愛・キャリア・出産の可能性を広げるひとつの手段

 

船曳医師が勤める大阪の『オーク住吉産婦人科』では、2008年から医学的な適応で卵子凍結を行なっており、未婚で年齢を心配するなどの社会的適応での卵子凍結は2010年から実施しています。今年に入ってからは相談を含めた来院者が増え、すでに70人の女性が卵子の凍結保存を行なったそうです。

●その1:いま“卵活”が注目されている理由
「女性の生き方は昔とは大きく異なり、いまは30歳を過ぎてからも仕事と恋愛の時期を過ごすことが当たり前の時代です。しかし、現代の女性たちが仕事に没頭する20代後半から30代前半こそが、生殖にとってはまさに重要な時期なのです。30代後半から妊娠率は急激に低下するので、それまでに出産することが望ましいと分かっていても、どうしようもないこともあります。いま流行の“婚活”にしても、焦るばかりで精神的に追い込まれてしまう女性もいます。一方で、もしも自分の卵子を凍結保存することができれば、女性にとってはそれだけで気持ちに余裕ができ、前向きになれるのではないでしょうか。昨年あたりからテレビでも卵子凍結の報道が流れ始め、女性たちの関心を集めたことで注目されるようになったと感じます」

●その2:卵子を凍結保存する方法と安全性
「これまでは、卵子を凍結すると染色体を損傷するおそれがあるといわれていました。しかし、氷晶形成をさせずに卵子を凍結する『ガラス化法』が1999年に完成し、卵子に高濃度の凍結保護物質を浸透させて脱水し、それを一気に冷却することで、卵子を半永久的に劣化させずに保存することが理論上では可能になったのです。また、2013年1月に発表されたアメリカ不妊学会による統計分析では、卵子凍結による顕微授精と、新鮮な卵子による顕微授精では、受精率と妊娠率に変化は見られませんでした。染色体異常や、身体的・精神的な異常が増えるかという点についても、凍結卵子を使った受精卵で生まれた子どもと、自然妊娠の子どもとの間に違いはありませんでした。2013年9月にボストンで開かれたアメリカ不妊学会では、アメリカにおける凍結卵子による出産児は約6000人に上るという推計が出ています。今後は日本でも増えていくものと予想されます」

●その3:“卵活”が生む新たな可能性
「私はOLから医学の道へ進み、2度の結婚と43歳で初めての出産を経験しました。不妊治療で当院を訪れる患者さんのなかには、『自然に任せたい』と希望する方もいます。もちろんそれもひとつの選択です。現代を生きるアラサー女性たちは、仕事や恋愛、結婚、出産について、まさに迷いの時期だと思います。だからこそ私は彼女たちに、“科学的・生物学的に考えれば恋愛も生殖行動のひとつに過ぎない”ということを伝えたいのです。婚活や妊活において、科学があきらかにしている技術を駆使してもらいたいのです。卵子凍結をひとつの方法として選択することで、キャリアや経済面、パートナーの選択といった可能性が広がり、精神面での安定や文化的で成熟した人生の享受にもつながります。日本ではまだ新しい技術であり、費用や高齢出産の場合のリスクなど万能でない点もあります。だからといって待っているだけだったり、何もせずに諦めたりするのではなく、目の前にある技術を積極的に使って、自分で道を切り開いてほしいのです。その可能性が卵子凍結にはあるのですから」

 

卵子凍結の未来は……

 

世界初の体外受精児が誕生したのは1978年。
当時は「試験管ベビー」と呼ばれ、不妊患者の希望となった一方で、倫理的・道徳的批判も相次いだそうです。
それから30年。日本ではすでに、30万人以上の赤ちゃんが体外受精で生まれているといわれています。

2004年からは補助金も出るようになり、いまや体外受精は日常的な治療法になったといえます。いまから30年後には、卵子凍結はごく一般的な選択肢となっていると船曳医師は予想します。

今月7日には、日本産科婦人科学会が『卵子凍結の注意点を定めた指針』を作成する考えを示しました。

さまざまな声があがるなかで、女性たちにとって卵活は、新たな人生の道を指し示すひとつの可能性であることは間違いないようです。

 

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【取材協力】
医療法人オーク会(オーク住吉産婦人科・オークなんばレディースクリニック・オーク梅田レディースクリニック)
産婦人科専門医:船曳美也子医師
http://www.oakclinic-group.com/

Written by カタタク
Photo by Lauri Kulpsoo

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