2019年4月より、テレビ東京での実写ドラマ化が決まった、よしながふみ氏の原作漫画「きのう何食べた?」(講談社『モーニング』連載中)。
ゲイのカップルを主人公として、「生活と料理」を描くこの作品の魅力を、今回は作品の大ファンである筆者が紹介していきます。
1.魅力的な登場人物、いろいろな“人生”
「きのう何食べた?」には、美容師で明るい性格のケンジと、弁護士で倹約家のシロさん、このカップルを中心に、人間味あふれるキャラクターが多数登場します。
この作品はフィクションですが、エッセイのようなリアリティがあります。読み進めていると、登場人物たちの人生をちょっとだけ垣間見ている気分になるんです。
人生ですから良いこともあれば、悪いこともあります。
出産や不妊治療、浮気や不倫、結婚や離婚など、いろいろな話があります。
しかしどんな深刻なテーマにも、さらっとした絶妙な距離感があり、問題に対してのはっきりした答えは、必ずしも描かれません。
「どこん家(ち)もみんな何かしらはあるって事だ(7巻58ページ)」とシロさんが言っているように、どんな人にも「何かしら」はあって、それが登場人物たちの魅力をより高めているんです。
そして誰もが人生で欠かせないもの、それが料理です。「きのう何食べた?」では、毎話、登場人物たちが必ず料理をします。
2.便利なレシピ本、さまざまな“学べること”
この漫画は、シロさんのケチで小心者な性格(褒めてます)のおかげで、金銭感覚がとっても庶民なんです。
作品中で作られている料理は、基本的に一汁三菜、かつ毎日しても疲れないようなメニュー、つまり家庭料理です。
「料理は俺にとって生活であって趣味じゃない(12巻35ページ)」とシロさんが言うように食材費のかかる凝ったレシピは少なく、お手頃な食材で簡単においしく作れるレシピが多く載っていて、レシピ本としてすごく役に立つんですよ。
共働きの家庭は、家事分担の方法なども参考にできます。また、同棲している相手への気づかいの方法など、カップルの長続きのコツも学べます。
長年連れ添っているシロさんたちカップルから、長続きするカップルについて、学べることがたくさんあるんです。
3.LGBTの目線を体験できる
筆者はLGBT当事者ですが、わりと“親”や“カミングアウト”の話にセンシティブで、商業BLでもそういう話は読んでいてつらくなることもあります。
「きのう何食べた?」は主人公がゲイのカップルですし、やはりこの話題が出てきます。
しかし、悲観的にも楽観的にもなりませんでした。まったく表現方法が押しつけがましくなかったからかもしれません。ただ「こういう人もいるよね」と感じ、正解なんてないんだなと客観的に思いました。
どこまでも当事者目線の、LGBTに対する周りの目線が体験できます。
いい話かと思わせて、突然偏見の目を受けたり、偏見の目を受けるかと思いきやなんともなかったり、とてもリアルです。
渋谷区のパートナーシップ制度の話が出てきたりもしますし(11巻♯84)、LGBTあるあるな話もあり、漫画を読むだけでLGBTのリアルな日常を体験できますよ。
おわりに
「きのう何食べた?」は、登場人物たちの“生活と料理”を中心に、それぞれの“人生と幸せ”を描く作品です。
シロさんもケンジも、女性と結婚したり子供を持ったりなどの“普通の幸せ”とは縁遠いですが、確かに幸せな生活を送っています。仕事をして、料理をして、それを2人で食べる。それが彼らの幸せの形なんです。
そしてそれは、彼らが「ゲイだから」ではないんです。作品に出てくるヘテロ(異性愛者)のカップルだって、どんな人たちだって、それぞれの幸せを持っています。
「ヘテロだからこれが幸せ」「ゲイだからこれが幸せ」と決して押しつけない、この暖かな距離感が、たくさんの人を魅了してやまない「きのう何食べた?」の魅力のひとつなんです。
「きのう何食べた?」は講談社から、現在1巻~14巻が発売中です。春から始まるドラマをもっと楽しむために、原作漫画をチェックしてみてはいかがでしょうか。
(西繭香/ライター)
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