ソチオリンピックの金メダルにもっとも近い選手といえば、やはり浅田真央選手でしょう。
彼女の武器はいわずと知れたトリプルアクセル(3A)。現在このジャンプができるのは浅田真央だけになっています。
しかし実は、3Aは「他の誰も跳べない浅田真央だけの技」ではなく、「他の誰も跳ぼうとしない技」だということをご存知でしょうか?
トリプルアクセルはハイリスクローリターン
2004年まで使われていた6点満点のジャッジングシステムから、現在の採点に変わったとき、各ジャンプに難易度別の基礎点がつけられ、技の出来栄えでプラスマイナスされるというスタイルになりました。
現在の3Aの基礎点は8.5。これは男女共通です。
男子に比べて体力のない女子は、ほとんどの選手が演技の冒頭で一番の大技を入れる構成をとります。
鈴木明子選手をはじめ、多くの女子選手が跳んでいる3トウループ+3トウループの2連続ジャンプは基礎点が8.2と3Aとあまり変わりません。
さらにキム・ヨナ選手が得意とする3ルッツ+3トウループの基礎点は10.1点! 3Aよりも高いのです。
3Aは女子にとって紛れもなく最高に難しいジャンプです。しかし単独で高得点をかせぐ3Aは、失敗すると得点を大きく失ってしまいます。
それに対し2つのジャンプを連続するコンビネーションジャンプは、最初のジャンプがうまくいかなければ連続ジャンプを回避し、次のジャンプ時にチャレンジすることもできるので、「リカバリー」が可能なのです。
さらに、2回転半のダブルアクセル(2A)の基礎点は3.3。先日のグランプリファイナルで浅田真央が綺麗に跳んだと思われた3Aは回転不足をとられ、稼げた点数は5.57にすぎません。そんなリスクを冒すより、比較的簡単な2Aをきちんと跳んで加点を稼いだほうがずっと楽なのです。
加えて、3Aほどの大技は練習中に大怪我をする可能性がとても高いため、コーチも積極的にチャレンジさせたがりません。
このような理由から、3Aのようなハイリスクローリターンな技を演技に組み込むより、なるべく難易度の高い連続ジャンプを重点的に練習する選手のほうが多いのは当然だといえるでしょう。
浅田真央引退は女子フィギュアの競技レベルが低下する大問題
しかし、フィギュアスケートはまぎれもなくスポーツ競技です。男子は前回のバンクーバーオリンピックに比べてどんどんレベルが上がり、4回転なしで高得点は期待できない激戦になっているというのに、女子はほとんどレベルが上がっていません。
それなのに浅田選手引退後、女子の3Aが消滅してしまったら、スポーツ競技としてレベルダウンしてしまうことになるのではないでしょうか。
伊藤みどりをはじめとして、浅田以外にもこれまで3Aを跳べる選手は何人かいました。現在もロシアのトゥクタミシュワ選手は練習で3Aを跳んでいるそう。
浅田真央がこれまで必死に守り抜いてきたアスリートとしての女子フィギュアの歴史。
ソチで浅田真央が悲願の金メダルに輝いたら「3Aにチャレンジしたい」と思う女子選手が増えるかもしれません。
女子フィギュアをレベルダウンさせないためにも、ソチ五輪での浅田真央を全力で応援したいものです。
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Written by 杉本レン
Photo by 浅田真央 そして、その瞬間へ/学研マーケティング